限りなく100%に近づけるための試行錯誤。究極の効率を誇る高圧直流送電システム。
想像してみてほしい。紺青の大海に立ち並ぶ風力発電機の典雅な姿を。優に100メートルを超える巨大なブレードが奏でる風切り音を。沿岸からはるか100キロメートル先の洋上でつくられた電力が社会や暮らしの基幹エネルギーとなる、そんな時代を。
日本は資源小国であり、エネルギーセキュリティーの観点からも多様な電源構成が望まれる。これは近年の数々の災害を通じて、我々が教訓として得たことでもある。持続可能性を有する再生可能エネルギーの中でも、ヨーロッパを中心に急速に普及しているのが「洋上風力発電」だ。陸上と比べて風況が良い、立地の制約が少ない、風車の大型化が可能といったメリットがある。安定的かつ効率的に発電ができるというわけだ。なんといっても“自前”であることの利点は大きい。広大な排他的経済水域(EEZ)を有するわが国でも導入が期待されている。
「2018年9月には世界最大の洋上風力発電所であるウォルニー・エクステンション(英国)が稼働を始めました。アイリッシュ海に建設された高さ約190メートルの風力発電機87基の合計出力は約659メガワット。これによりイギリスの家庭、約60万世帯に電力を供給することが可能といわれています(※数字は同社のホームページより)」と話してくれるのは中村健二教授だ。巨大技術である洋上風力発電は、多くの英知の複合体といえる。その中の基幹技術である送電システムの研究に取り組んでいるのが中村研究室である。
「私たちが視野に入れているのは80~100キロメートル沖で稼働する大規模な洋上風力発電です。これには最小限のロスで、電力を陸上まで運ぶ技術が不可欠ですが、距離を考えると従来の高圧交流送電ではなく、高圧直流送電(以下HVDC)が優位であると考えています。高効率なHVDCを実現するためのDC-DCコンバータ回路の設計や制御が、私たちの研究ターゲットです」。
“高効率なHVDC”と謳うが、中村研究室が目指すのは限りなく100%に近い効率を誇る究極の送電システムである。「例えば100メガワットを送電する場合、99%の効率でも1メガワットの損失が生じます。これが大きな電力を扱う難しさです。とにかく少しでも効率をアップさせる。そのためには構成するデバイスの一つひとつを吟味し洗練させていかなければなりません」。研究室の一角に鎮座する模擬実験装置でテストと評価を繰り返す日々だ。